先進第十一 287

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原文     作成日 2005年(平成17年)10月から12月
子路使子羔爲費宰。子曰、賊夫人之子。子路曰、有民人焉、有社稷焉、
何必讀書、然後爲學。
子曰、是故惡夫佞者。
 
〔 読み下し 〕
()()子羔(しこう)をして()(さい)たらしむ。()(のたま)わく、()(ひと)()(そこな)わん。()()()わく、民人(みんじん)()り、社稷(しゃしょく)有り()(なん)(かなら)ずしも(しょ)()みて、(しか)(のち)(がく)()さん。()(のたま)わく、()(ゆえ)()佞者(ねいじゃ)(にく)む。
 
〔 通釈 〕

子路が後輩の子羔を費の代官に抜擢した。これを知った孔子は、「人一倍とろい(柴や愚)子羔をそのような要職に就けるのはまだ早い。未熟な代官に治められる人民もたまったものではない。あの子は大器晩成型なのだから、もう少し学問修養を積ませてからにしなさい。将来のある子も人民も、ともにダメにしてしまうぞ!」と子路を叱った。

子路はムッとして、「又そんなことをおっしゃる。既にここに治むべき人民がおり、社会があり
ます。実務を通して学ぶのも、立派な学問修養だと思います。何も机上で書物を読むだけが学問ではないと思いますが」と反論した。孔子は、「これだから口達者な奴は嫌いだよ。口では何とでも屁理屈をこねられるからな」と云った。
 

〔 解説 〕

孔子に面と向かってこんな事が云えるのは、孔子門下では子路位のものでしょう。280章に「柴や愚」とあるように、子羔は愚直で融通のきかない性格でしたから、子路は何とかこの後輩に自信をつけさせてやりたいと思い、自分がバックアップしてやればどうにかなる!と判断して抜擢したのでしょう。

孔子に、「おお、それは良いことをしたな!後の面倒は見てやれよ!!」と褒めてもらえると
思っていた所が、「夫の人の子賊なわん!」と一喝されてしまった。良いことをしたと思っていたのに、叱られてしまったものですから、ムッとして口答えしたのではないかと思います。

ただこの会話で面白いのは、子路自身子羔には荷が重過ぎることを充分知っており、又孔子の云う事も分かっていた。孔子は孔子で、子路が後輩の為を思ってやったことも充分分かっていた。だから「夫の佞者を悪む」と、子路の反論に対して敢えてはぐらかすような言い方をした。

孔子も子路も、ともに子羔の為を思いやっている点では同じなのですが、子路のやり方は
後輩子羔だけのことを考えて、人民の事は考えていない。一方孔子は、子羔のことも人民のことも考えて、つまり、未熟者の子羔も、未熟者に治められる人民も、ともに賊ないかねないことを憂慮して語っている。

こと政治に携わる者に、「失敗しながら学んで行けば良い」などと、呑気なことを云わせては
おけません。迷惑するのは人民ですから。「夫の人の子を賊なわん」とは、本人のみならず、周りの人も賊ないかねないことを慮っての発言でしょう。
 

〔 子供論語  意訳 〕
()()季孫家(きそんけ)総支配人(そうしはいにん)をしていた(とき)後輩(こうはい)子羔(しこう)()という営業所(えいぎょうしょ)所長(しょちょう)抜擢(ばってき)した。これを()った孔子(こうし)(さま)は、「人一倍(ひといちばい)スローモーで馬鹿正直(ばかしょうじき)()に、()(まわ)るような仕事(しごと)をまかせたら、パニックを()こしてしまって、本人(ほんにん)のみならず周囲(しゅうい)(ひと)(たち)にも大迷惑(おおめいわく)をかけてしまうではないか!子羔(しこう)がノイローゼにならないうちに、(はや)()(もど)しなさい!この()はまだまだ勉強(べんきょう)()りません」と()()(しか)った。()()はムッとして、「(つくえ)()かって勉強(べんきょう)ばかりしていても、(すこ)しも実力(じつりょく)がつきません。現場(げんば)では失敗(しっぱい)しながら(まな)んでこそ実力(じつりょく)がつくのではありませんか?」と反論(はんろん)した。これに(たい)して、孔子(こうし)(さま)は、「(きみ)後輩(こうはい)(ため)(おも)ってやったことはよく()かる。だが、カミソリではヒゲは()れるが()()れないないだろう?マサカリでは()()れるがヒゲは()れないだろう。カミソリにはカミソリの仕事(しごと)、マサカリにはマサカリの仕事(しごと)があるように、(ひと)にもそれぞれ()不向(ふむ)きがあるのだから、とろい()にはとろい()()った仕事(しごと)、すばしこい()にはすばしこい()()った(しごと)事をさせると、みんな()()きとして、全体(ぜんたい)活気(かっき)()ちて()る。とろい()にすばしこい()合った()仕事(しごと)、すばしこい()にとろい()()った仕事(しごと)(あた)えたりすれば、本人(ほんにん)のみならず、(まわ)りもやる()(うしな)って、全体(ぜんたい)(くさ)ってしまうだろう?これが(ひと)()かして使(つか)うコツだね」とおっしゃった。
 
〔 親御さんへ 〕

「木に縁(よ)りて魚を求むるが如し」とは、孟子の言葉だったでしょうか?そんなバカなことをする筈がない!とみんな思っているけれども、結構多いんですよこういうことは。特に我が子に対してはね。

前に、一面の長所には反面の短所が潜んでおり、一面の短所には反面の長所が潜んでいるものだ、と申し上げましたが、とろいと云うのは確かに短所だけれども、こういう子は中途半端が嫌いで、やり出したら納得の行く迄諦めないという長所がある。又、すばしこいのは確かに長所だけれども、反面器用貧乏で何をやらせても中途半端という短所がある。

足して二で
割ったら丁度いいのに!?と思ったことありませんか?しかし、残念ながら、そう考えること自体が間違いの元なんですね。二で割ったら前よりも悪くなってしまうんですよ!割っちゃダメなんです。そうですねえ、分かり易く云うと、仮りに長所を1点・短所を0点、とろい子をA君・すばしこい子をB君としてみますか。

  A君 俊敏性0点 耐久性1点
  B君 俊敏性1点 耐久性0点

  (A君+B君)÷2=1点で、点数としては元のままですが、
  分解すると次のようになる。

  A君 俊敏性0.5点 耐久性0.5点
  B君 俊敏性0.5点 耐久性0.5点

つまり、A君には抜群の耐久性、B君には優れた俊敏性があったのに、割ってしまった為に、A君のとろさは若干改善されたけれども、持前の耐久性が半減し、B君の耐久性は幾分改善されたけれども、持前の俊敏性が半減して、二人とも何の特徴もない一山いくらの人物に成り下がってしまう。前よりも悪くなってしまう。

さあそこでどうするか?A君には耐久性を磨きながら俊敏性をつけさせ、B君には俊敏性を磨きながら耐久性をつけさせるにはどうしたら良いか?

A君には深耕型、つまり、一つのことに集中・没頭できるような環境や条件を整えてやる。目移りするようなテーマを与えない。B君には拡張型、つまり、幅広く何でも見たり聞いたりできるような環境を整えてやる。敢えて目移りさせるように、次から次へと新たなテーマを与える。

こうすることによって、A君はある特定の分野に関しては俊敏性が出て来るし、B君は千変万化する現象即ち、変化に対して耐久性が出て来る。A君にはもっともっと深く掘らせること、B君にはもっともっと幅広く経験させること、ここがポイントなんですね。みんな逆のことをやって、子供をダメにしているんですよ!とろい子に幅広く、すばしこい子に奥深くと。

読み・書き・算盤が人並みにできれば、後は「角を矯めて牛を殺す」ことなく、「備わらんことを一人に求むる」ことなく、その子に合ったやり方で、伸び伸びと育ててやったらいいんです。孔子が「夫の人の子を賊なわん」と云ったのは、こういう意味にも解釈できるのではないでしょうか。
 

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