陽貨第十七 447

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〔原文〕
子日、唯上知與下愚不移。

〔読み下し〕
()(のたま)わく、(ただ)上知(じょうち)下愚(かぐ)とは(うつ)らず。

〔新論語 通釈〕
孔子云う、「身・口・意の習慣が人物を作り上げることを知らず、放ったらかしておくと、良き習慣の者は益々良く、悪しき習慣の者は益々悪くなってしまう。こうなるともう取り返しがつかないと。

〔解説〕
人様の習慣はよく見えるけれども、自分の習慣は人に指摘されないと中々分からないものです。こういう時に頼りになるのが、ズバリと直言してくれる友ですね。家族ではお互いに我儘が出ますから、指摘されても「うるさい!」となって、あまり効き目がありません。他人に指摘されると、「ほう?人はそう見ているのか!?」となって、改める気になる。

それを、「これが俺の流儀だ!」、「これが私の個性だ!」、「放っとていくれ!!」などと突っ撥ねると、最早それ迄、バカにつける薬は無い!となって、誰も指摘してくれなくなります。こうなるともう「裸の王様」になるしかない。本章を読む度に、「裸の王様になったらお終いだぞ!」と、孔子に窘(たしな)められているような気がします。裸の王様的要素は、大なり小なり誰でももっているものですからね。

〔子供論語 意訳〕
孔子(こうし)(さま)がおっしゃった、「(いえ)()につけた習慣(しゅうかん)には、()いものもあれば(わる)ものもある。先生(せんせい)やクラスメートに(わる)(ところ)注意(ちゅうい)されたら、(ぼく)はこれでいいんだ!などと意地(いじ)()ると、(わる)習慣(しゅうかん)(うえ)()()()りの習慣(しゅうかん)まで()につけてしまうことになる。(わる)いと()りながら意地(いじ)()ると、(こころ)がねじけてしまう。(こころ)がねじけた(ひと)のことをヒネクレ(もの)というんだよ」と。

〔親御さんへ〕
そうですか‥‥、悪いと知りながら意地を張ると、心がねじけてしまいますか‥‥。人体には、細菌や毒素が侵入して来ると、これを中和無毒化する為に抗体が作られて、体を守る防禦システムが働きます。これが正常に働けば、免疫力を高めて健康で丈夫な体になりますが、過剰に働くと、毒ではないものに対しても過敏に反応して、アレルギー症状を引き起こします。所謂アトピーですね。

これを精神作用に置き換えてみると、直言や忠告は本来自分にとって薬になるのだけれども、自己防禦システムが過剰に働くと、薬を毒と勘違いして拒否反応(アレルギー反応)を引き起こしてしまう。つまり、心がねじけるとは「心のアトピー」と考えて良いのではないでしょうか?意地を張ることは、心のアレルギー反応ですね。

とすると、過剰な防禦システムは、過剰な自己合理化・自己正当化ということになります。完璧な人間など一人もいないのですから、意地など張らず素直になれば、薬は薬、毒は毒と正常に免疫システムが働いて、心のアトピーなどにならなくて済むのですがねえ。
 

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